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日本は喫煙率が高いのに平均寿命が世界でも長いのはなぜ?

日本人の平均寿命は戦後大幅に延び、1980年代になると女性は世界一となり、近年は男性も主要先進国では第一位になりました。

喫煙大国がなぜ「平均寿命」も「健康寿命」も世界一?
喫煙はさまざまな疾病をもたらし寿命を縮めます。しかも、その害は喫煙者にとどまらないこということになるでしょう。しかし、たばこは本当に国民の寿命を縮めているのでしょうか。まず、この点を検証してみましょう。

日本人の平均寿命は戦後大幅に延び、1980年代になると女性は世界一となり、近年は男性も主要先進国では第一位になりました。2005年発表のWHOの「世界健康報告」で各国の平均寿命を見ますと、わが国の女性は85歳でモナコと並んで、男性も78歳でスイス、スウェーデンと並んで、いずれもトップを維持しています。また、健康寿命においても、わが国は女性はもちろん、男性も72.3歳でトップ、第2位のスウェーデンを0.4歳上回っています。

一方、喫煙者は短命ということについては、昔から「たばこ1本で寿命を5分30秒縮める」とスローガンのようにいわれてきました。先に記したように、喫煙者は非喫煙者に比べて10年程度寿命が短いというのは今日では医学界の定説になっています。

わが国では、厚労省の研究班の大規模疫学調査で、40歳の喫煙男性は、非喫煙男性に比べて余命が3.5年短いことがわかったと発表されました。調査は1980年に保健所で検診を受けた男女一万人(平均年齢50歳)の喫煙の有無や喫煙量を99年まで追跡調査し、亡くなった2000人の年齢と喫煙習慣から平均余命を算出したものですが、寿命に対する喫煙の影響が具体的な数値として明らかになったのは国内で初めてということです。研究班は、男女の寿命の差(7年)にも喫煙習慣の差が大きく影響していると見ています。

ところで、日本は世界に冠たる「喫煙大国」というのも広く知られた事実です。男性の喫煙者率は昭和30~40年代は80%程度で推移し、昭和43年には83%に達しました。成人男性はたばこを吸うのが当たり前で、吸わない男性は何か特別な理由があると見られるほどでした。その後、喫煙者率は漸減傾向をたどっていますが、今日でも男性の約40%が喫煙しています。加齢とともに喫煙者率は下がる傾向にありますが、1985年ごろまで、70歳以上の高齢男性でも過半数は喫煙者でした。

もし、多くの疫学調査の結果が示すように喫煙者は10年も短命だとすれば、喫煙者が圧倒的な多数派であった日本男性の寿命はかなり短いはずです。しかし事実は違っており、先に述べたように戦後ぐんぐんと寿命を延ばし、1963年にはアメリカを抜き、77年にはスウェーデンを抜いて主要先進国ではトップになりました。

日本民族が遺伝的にとくに長寿であるとは思えませんから、もし喫煙者がそれほど短命だとするならば、わが国男性の長寿は、(少数派である)非喫煙者の寿命がきわめて長いことによって担保されてきた、ということでなければ辻棲が合いませんが、そうした事実はないでしょう。

また、喫煙者率・喫煙量と平均寿命について各国のデータを比較しても、それらのあいだにまったく相関性は見られません。平均寿命の長い先進国の1人あたりのたばこ消費量は、寿命の短い開発途上国の約2~3倍になっています。日本は、なんとアフリカ諸国の6倍もの量のたばこを吸ってきたのです。

WHOは2005年版「世界健康報告」において、各国の「成人死亡率」を発表しました。それによると、わが国男性の死亡率は1000人あたり96人で、アメリカの139人、イギリスの103人を下回っています。WHOは、喫煙者は壮年死亡の割合がきわめて高いといいますが、喫煙者率の高いわが国の壮年男性の死亡率は、喫煙者率の低い米・英の男性を下回っています。

また、WHOは2003年版「世界健康報告」において、各国の「健康寿命」と「60歳時の健康余命」を発表しましたが、日・米・英3カ国の男性の状況は健康寿命はもとより、60歳時の健康余命でもわが国の男性は米・英の同世代より2年も長くなっています。

なお、アメリカは若年人口が多いことがわが国より平均寿命が短い一因ですが、高齢者の健康余命でもわが国に比べて短いようです。ところで、男女の平均寿命の大きな開差も喫煙者率がかかわっているという説明をよく見かけます。
すべての国で女性のほうが5~7年平均寿命が長くなっており、喫煙者率の男女差による寿命の差はあまり明確ではありません。わが国は男女の喫煙者率の差が大きいから、平均寿命の差が大きいとはいえないようです。

それにしても、WHOのたばこが原因で死亡した人の半数は寿命を20~25年縮めているという説、米公衆衛生総監報告書の喫煙者は14~15年寿命が短いという説、イギリスのドール博士の10年短縮説、そしてわが国の研究での3~4年短縮説。なぜ、こうした大きな開差に疑問が呈せられることもなく、数字だけが宣伝されるのでしょうか。


喫煙による「超過生存」という視点
喫煙と寿命に関する疑問をあらためて記しますと、喫煙者は非喫煙者に比べてさまざまな疾病に罹患し死亡するリスクが高く、平均寿命を10年程度縮めているということが多くの疫学研究によって明らかにされているにもかかわらず、「世界一のたばこ好き」といわれた日本男性がなぜ急速に寿命を延ばし、平均寿命でも健康寿命でも世界一になったのか、また今後もこれを維持すると予測されるのはなぜかということです。

すなわち、最大の統計データである国民の寿命と、疫学研究の結論のあいだには説明困難な矛盾があるのです。この矛盾は、喫煙の影響は20~30年後に顕在化するという説明で先送りされてきましたが、今やこの説明も破綻しつつあります。
ということは、「喫煙者は早死にする」という命題にどこか不都合なところがあると推測せざるをえません。

がんや心臓病などの慢性疾患は、性格、生活習慣(ライフスタイル)、体質(遺伝子?)、社会・経済的状況など、多くの要因が互いに原因となり結果となって発症する複雑系の疾病である。しかし、決定論的、還元主義的な近代医学(疫学)においてはこうした要因の相互関連性が無視される結果、喫煙のような見かけ上の要因が過大に評価されることになる。

オックスフォード大学のリチャード・ビート教授らの研究では、「喫煙に起因する死亡者」は、わが国の男性の場合、死亡者の17%程度とされる。このデータを信頼するとしても、男性の大半がたばこを吸ってきたことを考えると、喫煙者でもたばこ病で亡くなる人は少数派である。たばこ病にかからない多数派の喫煙者のなかには(適度な)喫煙によって健康を維持し寿命を延ばす人、すなわち喫煙による「超過生存者」が存在する。

過大に見積もられている喫煙による「超過死亡」を是正するとともに、まったく評価されていない喫煙による「超過生存」をカウントすれば、両者はある程度オフセットされ、それがわが国男性の喫煙者率が高くても平均寿命が長い理由である。

とはいっても、もともと病気や病人を対象とする医学(疫学では疾病・死亡統計が拠り所)に「超過死亡」はあっても「超過生存」という概念は稀薄でしょうし、そのうえ、心身にかかわる喫煙の効用は科学的には解明されていませんから、「適度な喫煙は超過生存をもたらす」というのは、いわばトンデモ仮説のたぐいで、医学関係者からは「ありえないこと」と言下に否定されてしまうでしょう。

今日の喫煙と健康にかかわる医学の態度は、「近代(西洋)医学」の規範的な考え方(パラダイム)に拠って形成されています。
そうであれば、たばこ問題を考えるにあたって、まずは「近代(西洋)医学」のパラダイムについて概観しておく必要がありそうです。


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