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からだがニコチン依存になっていくメカニズムを理解しよう

タバコを吸い始めてから、依存に陥るまでの様子を追ってみましょう。

ニコチン依存への道
①初めての一服
初めて何かを食べたり飲んだりしたときに、快適な状態を体験すると、またその状態を体験したいという欲求が出るのは当然です。しかしタバコの場合は特殊で、多くの喫煙者は生まれて初めてタバコを吸ったときの味をまずかったと記憶しています。試しに吸ったタバコの煙にむせて、味を楽しむどころではなかったということも多く、めまい・吐き気・頭痛などのとんでもなく不快な体験もします。

②社会的環境が作り上げる喫煙者への道
これほどまずいものをどうして大人はおいしそうに吸っているのだろうと疑問に思い、タパコに好奇心・興味を抱きます。同時に、おいしいと感じるようになったら一人前の大人だという錯覚、さらにタバコを吸うことが大人や社会規制への反発だと思い、タバコを吸って開放感を感じたりします。

独立心・ニヒル・男らしき・キャリアウーマン・反社会的行動・格好よさ・危険に挑むチャレンジ精神・冒険心・無謀さと若さなど、これらのイメージが巧みに仕組まれたタバコの広告などによって子供のころから頭に浸透しており、タバコを吸うのは当たり前という、今の社会におけるタバコの扱われ方や仲間外れへの恐怖などが手伝って、次のタパコに手を出すようになります。

試しの喫煙が定期的になり、そのうちに呼吸器官の感受性低下のために身体の煙に対する生体防御反応である咳やむせることもなくなり、やがてタバコのもたらす独特の感覚を理解するようになります。このようにタバコは訓練によって本格的に吸えるようになるのです。

③耐性の形成
ところが何か月も吸い続けていると、最初に感じたほどの感覚が得られなくなってきます。これが耐性です。そのためにタバコの本数は増え、吸い方は深くなります。

④依存の形成
喫煙が何か月、何年にもわたっていくと喫煙後数時間たっても、身体の状態が以前のタバコを吸わなかった状態に戻らなくなっていきます。喫煙を続けた結果、肉体も精神も変化させられていきますので、ニコチンが体内から消失するにつれ、さまざまな肉体および精神の変化が現われてきます。

これらの症状は退薬症状あるいは禁断症状、正しくは離脱症状とよばれますが、非常に不快・苦痛であるため、それから逃れるためにタバコを吸います。こうして肉体的依存と同時に、次に述べる精神的依存の形成と習慣とが密接に関連してくるようになり、「悪の三角形」ができあがるのです。


ニコチン依存のメカニズム
ニコチンの作用には実に興味深いものがあります。一時的に精神を集中させて、運動神経のパフォーマンスを改善し、頭をはっきりさせる覚醒効果をもたらす一方で、リラックスした気分にさせます。

ニコチンは興奮作用と鎮静作用の相反する作用をもちあわせており、喫煙者は状況に応じて吸い方を変えて気分を落ち着かせたり、逆に気分を高揚させたりしています。

ニコチンが脳においてどのように作用しているかは完全に解明されていませんが、現在のところは次のように考えられています。 脳神経細胞は、身体の細胞のように直接互いに接しあうことなく、独特の連絡網でつながっています。神経細胞は「軸索」とよばれる1本の長い突起と、多くの短い突起(樹状突起)を通じて互いに連絡しあっています。この樹状突起による連絡網は、人間が成長するに連れて極めて複雑になっていきます。

頭の回転が速いというのは、連絡網が多数、精密に設けられているということです。神経細胞同士の連絡は、「シナプス」とよばれる間隙を神経伝達物質が刺激を伝えることによってなされています。神経伝達物質はいくつも知られており、覚醒・鎮静・食欲調整・記憶などと深く結びついていることがわかっています。ニコチンはこれらの神伝達物質を介してさまざまな作用を示すと考えられています。 一方、ニコチンが脳の報酬領域を刺激することもわかってきました。報酬を感じる領域は大脳辺縁系とよばれる部分にあります。人間が人間として生きてゆくために、まず「たくましく」生きるための本能・情動があり、そのうえに「うまく」生きるための適応、そして「よく」生きるための創造があります。このうち「たくましく」生きていく中枢が大脳辺縁系です。食欲や性欲・集団欲・動機などと関係がある部分です。

動物の脳に電極を入れて大脳辺縁系の特定の部分を刺激すると、動物はその刺激を何度も求めようとします。押せば脳に刺激が伝わるレバーを床のある部分に置いたゲージに動物を入れ、その動物が何らかの拍子にレバーを押したとします。レバーを押すと刺激が伝わり気持ちよくなるということを一度学ぶと、その動物はひっきりなしにレバーを押すようになります。水も飲まず、食べ物も食べずに、ついには疲れ果てて倒れるまで押し続けることもあります。

たとえばラットでは1時間に5000~1万2000回、サルでは1万7000回もレバーを押したという数値から、いかにその刺激が強烈であるかがうかがえます。 刺激で得られる感覚を快感とよんでよいのかどうかは動物にきいてみなければわかりませんが、人間が同様の刺激を与えられた場合、悦びとか陶酔とい う表現は使われず、あえて言葉で表現するとすれば、「緊張がときほぐれる」とか「静かなリラックスした気分」というのが最も近い感覚であるようです。

「なぜレパーを押し続けたのか言葉では説明できない」と言い切った人もいて言葉にするのは難しいようですが、不快であればレバーを押さないことは確かですので、レバーを何度も押させる脳の部分は報酬領域とよばれています。ニコチンは、大脳辺縁系のいくつかの部位に点在している報酬領域を刺激することがわかりました。

さてニコチンは脳に達すると、ニコチン受容体に結合して作用を発揮します。このニコチン受容体についても研究が進んでいます。ニコチン受容体は身体のいろいろな部分にあるのですが、とくに脳に多く存在し、場所によってその数が異なっています。大脳辺縁系はとくにたくさんニコチン受容体が存在する部分です。

ニコチンは受容体と結合し、局所の糖代謝を変化させたり、神経伝達物質であるカテコラミンの放出を調節して脳波の波形も変化させることがわかりました。 神経伝達物質のうちのドーパミンは快感をもたらします。そして大脳辺縁系にはドーパミンを遊離する神経細胞も多いこともわかりました。さらに喫煙によりドーパミンを分解する酵素の量が減り、ドーパミンの量が増えることによって、より強い快感をもたらすこともわかりました。

ニコチン受容体にもいくつかの種類があり、タイプによって作用が異なります。ニコチンが供給されるにつれ、受容体の数は増え、このためにタバコの本数も増えます。タバコを吸わないでいると、脳のニコチン受容体の数は次第に減ってゆき、タバコに対する強い渇望感も次第に和らいで、やがてタバコを吸わずにいられるようになります。

タバコはこのように脳を変化させることにより、強い依存状態を作り出します。タパコがないと不安である・タバコのない人生など考えられない・タバコなしで精神の安定が得られない、などと思う精神依存の背景にはこうした脳の変化があるようです。 タバコの害を否定したりいろいろな言い訳で喫煙を正当化したり、「自分はタバコに依存なんかしていない。禁煙なんていつでもできるさ。ただ今はやめる気がないだけだ」などと思っていることこそ、精神的な依存状況が作りあげられてしまっている証拠だといえます。

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