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喫煙者は急いで吸うのが当たり前になっているのでスロータバコに変えよう

これからのたばこ文化のあり方を考えるとき、近年「ファストフード」のアンチテーゼとして登場し、話題を呼んでいる「スローフード」がひとつの方向性を与えてくれます。

「スロータバコ」のすすめ
スローフードは「消えゆく伝統的な食材や食文化を守り、その生産者を保護し、子どもたちに味の教育を進めること」と定義されています。この趣旨からすると、いわゆる「スロー」というより、「伝統」や「本物」、「地域」や「手づくり」といった懐古的なコンセプトが浮かびます。しかし、今や語法が拡大して、「スローライフ」「スロートラベル」などに見られるように、「スロー」という言葉が本来的に持つ「ゆっくり」「のんびり」に即して使われるケースが増えました。

たばこについて考えてみますと、多くの喫煙形態のなかでシガレットは「ファストタバコ」と呼ぶにふさわしいと感じます。
第一に、今や日本中に60万台もある自販機から手軽に買え、特段、喫煙具や手続きも必要とせず、買ったその場から喫煙できる簡便性・インスタント性が「ファストタバコ」にふさわしいといえます。

第二に、今日のシガレットはかなり加工度が高くなっており、伝統とか本物というイメージは稀薄です。とりわけ1ミリグラムというような超低タールのシガレットは、自然の葉たばこをそのまま使用したのでは実現できません。加工した葉たばこ、気孔度を高めたラィスペーパー(巻紙)と微小開孔を施したフィルターペーパーによって空気を導入し、先端からの煙を希釈してはじめて実現できるものです。また、薄くなったたばこの味をカバーするために香料を使用しており、むしろ香料のフレーバーがセリング・ポイントになっています。

第三に、シガレットのつくり方が世界的に画一化されてきたことです。葉たばこ原料の流通はグローバル化し、製品規格は同一、製法はアメリカン・ブレンドに収數しつつあります。「マールボロ」は世界中で売られ、多くの国でナンバーワンブランドになっています。「マイルドセブン」も今や世界で売られていますが、アメリカン・ブレンドです。マクドナルドの一号店がローマにオープンした日に、ファストフードのアンチテーゼとしてイタリアでスローフード運動が始まったことを鑑みれば、アメリカが近代産業に仕立て上げ、世界を制覇しつつあるシガレットをファストタバコと呼ぶことに異論はないでしよう。

そうなると、「ファストタバコ」のカウンター・カルチャーとして「スロータバコ」がキーワードとして浮かびますが、「スロータバコ」の定義をスローフードからそのままいただくわけにはいきません。スローフードには「子どもたちに味の教育を進める」という大きな目的がありますが、これだけはたばこに適用するわけにはいきませんから。したがって、「スロータバコ」はスローを強調するスローライフに近いコンセプトになると思われますが、もちろん伝統や本物、地域といった要素も加えるべきでしょう。

前記に即してスロータバコを定義すれば、「くつろぎの時間を豊かにするたばこ、あるいはそのような喫煙スタイル」ということになります。

その本質はゆっくりやる、時間をかけるですから、
①喫煙するのに道具、あるいは手続き・作法を要する
②座ってゆったり吸う(歩きたばこ・くわえたばこはできない、あるいは好ましくない)
③ロング・バーニング(燃焼時間が長い)である
④ふかす、くわえたり手指でもてあそぶ、そして紫煙を眺め香りに陶酔するなどが中心だが、もちろん吸煙もできる

というようなことが要件になるでしょう。
このような要件から、現在の喫煙形態のなかで「スロータバコと呼べるのは、シガー(シガリロを含む)、パイプ、水パイプ、手巻きシガレット(シガレットだが、喫煙するのに道具、作業を要する)などがあります。

また、ロング・バーニングではありませんが、「伝統の味を守る」「生産者を保護する」「地域の食材を使用する」というスローフード本来の趣旨に沿って、キセル(キザミたばこ)を「スロータバコ」に加えたいと思います。キザミたばこは、日本の伝統種になった「在来種」という葉たばこを使用しますが、かつては各地に銘葉があり、それぞれ特徴のある喫味を競っていました。現在では「在来種」はキザミたばこに使用されるだけでなく、シガレットにも使われます。

往年の各地の銘葉を復活するとともに、キザミたばこの新しい吸い方を開発し、現代にふさわしく再生を図ることも「スロータバコの一環として意義あることと思います。
構造改革特区法によって「どぶろく特区」ができましたが、「キザミたばこ特区」があってもいいのではないでしょうか。「今さら、キザミたばこなんて」といわれるかもしれませんが、「各種の在来葉たばこを育てて乾燥させ、ブレンディングして、のんびり吸いくらべを楽しむ会」みたいなものをつくれば、会員希望者は多いのではないでしょうか。究極の「スロータバコかもしれません。もちろんビジネスにはなりませんから、伝統文化を護るNPO法人でいいと思います。たばこのイメージ・チェンジの一翼を担うでしょう。

免疫学の安保徹は「火打ち石で火をおこしていた時代くらいの本数であれば、タバコはストレスを除き、長寿の秘薬のままであったものと思う」(安保・前掲書)といっていますし、嗜好品研究会の高田公理は「嗜好品の多くは、軽いナルコティクスとしての資質をはらんでいた。そのためなのか、その多くが、普及の初期には「医薬品」とみなされた。

それらを摂取する人が増えてくる。すると、同じものが嗜好品とみなされる。さらに、その使用量が増えると「日用品」になる。つまり「嗜好品」とは、医薬品→嗜好品→日用品と変化する過程の特定の段階で「ある品物」が獲得する「存在の様式」にほかならないと述べていますが、シガレットをもって日用品となったたばこも、キザミたばこをもって再び医薬品へと回帰することが可能かもしれません。

翻ってみれば、近代的なシガレットの歴史はたかだか100年にすぎません。一方、人類にとって喫煙の歴史は1000年に及びます。その長い歴史の系譜を受け継ぐ喫煙様式として、パイプやシガーは今日に続いています。

これらの喫煙は道具や手続き・作法を重んじ、何よりそれに時間をかけるのを大切にしています。それは、そもそも喫煙が神と対話し、心身を癒し、そして社交の儀礼に大きな意味を持っていたことと無縁ではありません。

しかしながらすでに述べたように、近代シガレット(とくにフィルター・シガレット)の登場と脳化=都市化する社会は、喫煙の態様や意味を大きく変容させました。シガレットの手軽で随時的な脳のリセット機能を、パイプやシガー、キセルなどの「スロータバコ」で代替することはできません。

両者はもはやカテゴリーの異なるたばことなってしまったからです。それでも「多様性」こそ活力ある文化に不可欠との観点から、あらためて今日的な「スロータバコ」のあり方を模索し、提案することは、人々に「たばことは、そして喫煙とは」をあらためて考える機会を与え、それはいささか適切さを欠いてしまったシガレット・スモーキングのあり方(用法・用量)にも好ましい影響をもたらすであろうと信ずるからです。


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