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自殺や子どもが勉強できないのはたばこが原因?結果と喫煙の関係が曖昧

「禁煙に成功した受験生は、喫煙を続けた受験生よりも大学合格率が高い、という調査結果が日本呼吸器学会東海地方学会で発表された。

勉強ができないのも、自殺もたばこが原因
疫学は統計学を援用することによって原因と結果の因果関係を推定するわけですからそれなりに厳密な要件があるはずで、米公衆衛生総監の諮問委員会は、因果関係の妥当性を検証するために5つの基準を設けています。

関連の一致性 違う国、違う時代でも同じことが起こるか
関連の強固性 効果が定量的か
関連の特異性 原因のあるところに結果があり、結果のあるところに原因があるか
関連の時間性 〈原因→結果〉になっているか
関連の整合性 既知の知識体系と矛盾しないか


しかし、疫学研究のなかには相関関係あればすなわち因果関係と見なすというような乱暴なケースも散見されますが、むしろこうした研究は意外性・話題性に富むものがあり、メディアも好んで取り上げます。最近、報道されたもののなかから話題性のある例をあげてみましょう。

まず、「禁煙に成功した受験生は、喫煙を続けた受験生よりも大学合格率が高い、という調査結果が日本呼吸器学会東海地方学会で発表された。名古屋市の名鉄病院の医師が、浪人中の寮生の男子約100人を対象に調査した。

結果は喫煙者の合格率が25.9%だったのに対し、禁煙成功者は36.8%、非喫煙者は40.7%だった。『ストレスを紛らし、集中するための一服』という受験生に、調査した医師は「実際は勉強の能率が落ちている」と、煙たいお言葉」という記事がありました。

以前、ある人が大変な苦労をして、たばこを吸う学生の方が、吸わない学生より成績が悪いのではないかということを調べたが、その通りであることがわかった。これは大変多くの人に喜ばれ、それ以来、この結論はずっと重要視されている。この変わった調査は、正しく行なわれたものと私は信じている。すなわち、サンプルは十分大きく、正しく、注意して抽出され、相関は高く、等々。

ところが、この場合の誤謬は、大昔からあるもので、それは、BがAに続いて起こるなら、AはBの原因であるとする誤謬である。この場合も、喫煙と成績不良が一緒に起こっているから、喫煙は成績不良の原因であるという、いいかげんな仮定がなされているのである。

しかし、この逆も同じように起こりうるのではないだろうか?多分、成績が悪いので、そのために酒を飲むまでは行かなかったが、そのかわりたばこをすうようになったのだろうと。そう考えても、この結論は前のと同じように確からしいし、同じような証拠で裏づけられる。しかし、これではとても宣伝屋の満足するところとはならないのである。

続いて、2005年の「朝日新聞」に「子の受動喫煙「成績下げる」というタイトルで、「受動喫煙の機会が多いと、子どもの読解や算数の成績が悪いとの研究を、米シンシナティ子ども病院(オハイオ州)のチームが4日、米公衆衛生専門誌に発表した。

研究は6~16歳の子どもで、たばこを吸わない約4400人が対象。ニコチンが分解されてできるコチニンの血液中の量を測ったうえで読解、算数(数学)、論理的思考力、短期記憶力をテストした結果、コチニン濃度が高いと読解、算数、論理的思考力の点数が低いことが判明。濃度が極めて低くても関連ははっきりしていた」という記事が出ました。

アメリカでは、高学歴の人ほどたばこを吸わないという状況になっています。喫煙者率が高いのは比較的教育レベルの低い人たちで、そういう人たちは失業している割合が高く、子どもと家にいる時間も長くなりがちですから、その子弟ほど環境中たばこ煙の影響を受けやすいことは容易に想像されます。

つまりこのケースでは、「親の教育水準や家庭環境」が「子どもの受動喫煙」の原因であると同時に「子どもの成績の悪さ」の主たる原因にもなっていると考えられ、もしそうだとすれば受動喫煙と学校の成績との因果性は薄く、たんに統計的な相関を示しているにすぎないということになります。

このようなケースで問題になるのが「予測因子」(子どもの受動喫煙)とかかわりがあり、しかも「結果因子」(子どもの成績)の原因ともなっているような第三の因子の存在です。このような因子は「交絡因子」と呼ばれます。このケースでは「親の教育水準」という因子が「原因」と「結果」に交絡していると見られます。ある現象に原因があっても、必ずその原因の原因があるという具合につながっていくものです。疫学はそれをどこかで切って因果関係を求めるので、つねに交絡因子が問題になります

新聞には、「たばこ増えたら自殺のサイン?」という記事が掲載されました。「たばこを吸う習慣がある人のうち、自殺した人の血液中のニコチン濃度は、事故や病気で死亡した人に比べ3.5倍も高いことが、高知大学医学部の守屋文夫助教授らによる司法解剖例でわかった」というものです。

記事のなかで、守屋助教授は「ニコチンは精神を安定させる作用がある一方、吸い過ぎると、逆に気分が落ち込み、自殺の引き金になるとも考えられる」と述べていますが、これはいいすぎではないでしょうか。たしかに、ニコチンは摂取量が多くなると脳の抑制的な働きが強くなるといわれていますが、この場合は因果関係が逆で、自殺を覚悟した人は極度の不安・昂揚から直前にしきりにたばこを吸ったと見るほうがよほど素直です。

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