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妊婦の喫煙は胎児への虐待になるぐらいに悪影響がある

タバコのニコチンが母乳中に検出され、それは喫煙量が多くなるほど増加します。1日20本以上吸う母親の母乳を飲んだ子が慢性ニコチン中毒になり、不眠、嘔吐、下痢、頻脈などの症状を呈したことも報告されています。
喫煙が胎児に与える影響
日本の喫煙人口は減少してきていますが、ここ10年間で妊婦の喫煙率は2倍近くに増加し、特に10代の妊婦の喫煙率が高くなっています。

2001年の調査では、1473人の妊婦のうち、妊娠前に喫煙していた人は21.5%で、8.4%は妊娠中も喫煙していました。

特に胎児に影響のある有害物質は、一酸化炭素・ニコチン・シアン化合物・ベンツピレンで、胎児の発育遅延、低出生体重児の発生、知能低下、流産率・早産率の上昇、先天性異常の発生の増加などをもたらします。

妊娠している女性がタバコを吸うと、ニコチンが血管を収縮させて子宮への血の流れを少なくさせます。また、一酸化炭素が赤血球のヘモグロビンと結びついて血液の酸素を運ぶ能力を低下させます。

この両方のはたらきによって母体から胎児へ酸素を送る能力が低下します。その結果、胎児の発育が障害されて低体重児が多く産まれます。また、胎盤などの負担が強くなるために早産や出産前後の障害による新生児の死亡なども増加します。

妊娠中にタバコを吸っていた女性では、吸わない女性に比べて早産となる危険性も、低体重児を出産する危険性も、いずれも約3倍増加します。また、その危険性は吸っていたタバコの量が多いほど高くなります。

一方、妊娠前に禁煙した場合にはこれらの危険性は非喫煙者と変わらなくなり、妊娠早期に禁煙した場合には喫煙し続けた場合より危険性が低下することもわかっています。

しかし、妊娠がわかった時点ですぐに禁煙することは、なかなかむずかしいことが多いので、はじめから吸わないのが最良です。

わが国の出生率の低下は著しく、1992年の統計ではすでに先進国の中で最低の出生率になっていました。また最近の特徴として、低出生体重児(2000~2500g。平均は3100g程度)の出生率が上昇しています。さらに全体的に生まれる赤ちゃんの平均体重が減る傾向です。胎児の発育が過去に比べて劣っているという、胎児にとってはきびしい世の中といえるでしょう。

低出生体重児が増えている理由はいろいろ考えられています。その一つは妊婦に対する徹底した体重管理です。たくさん食べて体を動かさなければ、体重がどんどん増えて胎児が育ちすぎ、出産時に苦労します。そこで食べるほうを制限する、もしくは体をよく動かすことが指導されています。マタニティースイミング、マタニティーエアロビクスも盛んで、妊婦も体を鍛える時代というわけです。若い女性が細身の傾向になっているのも理由の一つかもしれません。

母親の狭骨盤の体型に合うそれなりの赤ちゃんというわけです。しかし、2005年ポーラ化粧品本舗による全国30万人の女性の調査によると、妊婦の主年代である20歳代の女性の喫煙率が25~30%と多いことも低出生体重児増加の理由の一つとも考えられます。


流産、早産
妊娠中に喫煙すると、喫煙しない人に比べて自然流産の頻度が1.5倍前後高くなることが、国内外の研究で共通して確かめられています。アメリカのニューヨーク市の3病院の調査では、毎日喫煙する場合の自然流産のリスクは非喫煙者に比べて1日10本以内で46%増え、20本まででは61%も増加していました。

同様に早産も妊娠中の喫煙本数が増えるほどに頻度が高くなるという報告が多くあります。喫煙女性は、妊娠しにくく、妊娠しても体調の悪さを訴える人が多く、出産時パニックを起こしやすいといわれています。

産科異常
カナダの大規模な調査によれば、妊娠中に1日1箱以上の喫煙をした場合、前置胎盤2.0倍、常位胎盤早期は1.8倍、出血1.5倍となり、いずれも妊娠20~30週にその危険が高まるといわれています。これらにより28週から生後1週までの胎児あるいは乳児の死亡も増加します。

低出生体重児
妊婦の喫煙と低出生体重児との関係では、どの報告も喫煙本数が増えるほど出生児の体重が少なくなるとあり、ある報告ではその減少体重の平均は200gです。私の調査では女の子ほど体重の減少が顕著でした。妊娠週数のわりに体重の少ない胎児(SFDベビー)も喫煙妊婦にその出現頻度が高まります。

しかし、禁煙すれば悪影響も減少します。母親が妊娠前に禁煙した場合、出生体重は非喫煙者とほぼ同じレベルになることが諸外国の研究で報告されています。さらに、母親が妊娠早期に喫煙していても妊娠に気づいて3~4か月までに禁煙すれば、低出生体重のリスクが非喫煙者のレベルにまで近づくことも報告されています。早産や周産期死亡のリスクを減らすために、妊娠に気づいたらすぐに禁煙に踏みきることです。

先天異常
妊婦の喫煙と先天異常の関係については、国内、国外ともにいろいろな研究がありますが、しだいに関係ありとする報告が増えています。特に唇裂、口蓋裂と心臓の先天異常は妊婦の喫煙と関係ありといわれています。米国の2007年の調査では、妊婦がタバコを1日15本以上吸い続けると、出生児の唇裂、国蓋裂を発症するリスクが20倍以上高くなると報告されています。これは、タバコの煙の解毒に関する遺伝子の欠損によるものだそうです。将来、子どもの成長に大きな負担になってしまうようなことは、予防できることはしてあげたいですね。

不妊
喫煙の影響は男女ともに不妊にも関係します。女性の排卵周期を乱し、男性の精子の遊走性を低下させます。受動喫煙によっても妊婦が直接喫煙する場合と同様な影響が胎児に生じます。

妊婦および周囲の人々のタバコ煙の害に対する認識不足から、妊婦は知らず知らずに受動喫煙させられています。夫の喫煙も妊婦および胎児への影響があります。また、精子の染色体異常、総精子数、運動率の低下も起きます。

タバコを吸う妊婦および夫の方、すぐにタバコをやめましょう。そして子どもの欲しい夫婦も、タバコをやめて健康な赤ちゃんを授かりましょう。


母乳への影響は大きい
授乳期間中の母親が喫煙すると、血液中のプロラクチン(母乳分泌を促進するホルモン)濃度が低くなり、母乳の分泌が低下します。したがって母乳が出る期間も短くなります。さらにタバコのニコチンが母乳中に検出され、それは喫煙量が多くなるほど増加します。一日20本以上吸う母親の母乳を飲んだ子が慢性ニコチン中毒になり、不眠、嘔吐、下痢、頻脈などの症状を呈したことも報告されています。

予定日近くに産まれたのに低体重の赤ちゃんがいました。出生半日後から不機嫌に泣き続けて眠らず、ピリピリとした神経過敏な状態でした。じつはその母親は妊娠中もタバコを吸っていた人だったのです。赤ちゃんは、暦帯や胎盤を通じて母親と血液がつながっているので、赤ちゃんもニコチン漬けの状態だったのです。

白湯やミルクを飲ませてもイラついた状態は治りませんでした。しかし、母親の母乳を飲ませたあと、退院のころにはおちついて眠るようになりました。母親は出産後さっそく、個室でこっそりタバコを吸っていたのです。赤ちゃんは母乳を通してニコチンが入ったので、ホッとしたのでしょう。その子が将来スモーカーになることを想像すると心配ですね。

赤ちゃんにとって母乳はアレルギー対策、免疫力、消化などのどれをとっても最良の食品です。医者の立場からは、禁煙をして母乳保育を続けてほしいのです。タバコを吸わないほうが母乳の出がよいともいわれていますし。

空気環境
火元から出る副流煙は、本人の吸う主流煙より有害成分が多く含まれているので、乳幼児の周囲での喫煙はやめましょう。厚生省(現厚生労働省)心身障害研究班の「小児事故防止のアンケート」結果によると、4か月児のいる部屋でつねにタバコを吸うケースは15.7%。1歳半児がいる部屋では29.6%、3歳児では38.9%です。乳児期には気をつけていても、赤ちゃんが成長するにつれて部屋の空気に無頓着になる様子がうかがえます。

幼児期に副流煙を受けるとぜんそく様気管支炎、肺炎の罹患率が高くなります。かぜもひきやすく治りにくくなります。小児ぜんそくの発作の誘引にもなります。最近問題になっているSIDS (乳幼児突然死症候群。うつ伏せ寝やタバコの煙を吸い込むことがおもな原因と考えられる)も、妊娠中の親の喫煙によって危険が高まるばかりではく、出産後の喫煙によっても危険が高まります。

日本の最近のSIDSの調査でも、両親の習慣的喫煙の場合は、両親が喫煙しない場合に比べて4.67倍も増加していました。これはうつ伏せ寝にしていた場合の危険の3.00よりも高いものです。
小児の慢性浸出性中耳炎も両親の喫煙で、その発症頻度が1.2倍から1.6倍も高くなるという報告があります。

そのほか、カリフォルニア環境保護局の調査によると子どもの急性気管支炎や肺炎は、両親の喫煙によって1.5~2.5倍にも増え、子どもの気管支ぜんそくは1.4~1.5倍にも増えると報告されています。小児科の治療では、どのようなよい薬や治療法よりも、親が禁煙することがいちばんの治療法であるともいえます。

誤飲事故
食べ物ではないものを国にしてしまう誤飲、誤食事故は1歳前後の乳幼児に特に多いものです。厚生労働省の統計では誤飲、誤食の原因物の第1位は毎年タバコです。
そのためにタバコ専用の110番の電話回線も設置されたほどです。前出のアンケート調査では「子どもの手の届く所に灰皿を置いているか」の問いに、1歳半児では「はい」3.7%、「ときどき」13.9%、「いいえ」52.1%であり、3歳児で「はい」15.4%、「ときどき」10.9%、「いいえ」42.0%でした。

また、誤飲・誤食事故は、午後6時~10時の時間帯に4割発生しています。これは夕方、母親が忙しくて目を離すことの多い時間であり、父親が帰宅してタバコを吸い、子どものそばに灰皿やタバコが置いてある時間だからでしょうか。食べて体に吸収されると生命の危険があるタバコを、日常的に子どもの手の届く所に置くのは恐ろしいことです。タバコのそばにあるライターで遊んで火事や全身やけどに至る可能性も考えると、事故防止のためにも家庭内は公共の場所と同様に禁煙場所に指定しましょう。

そして未来のある乳幼児が元気に育つために、タバコの煙を浴びない環境を整えることが大人や両親の役割です。子どもの肺をよごす権利は、親にもないのですから。
日本小児科学会では、1999年6月の理事会で「小児期からの喫煙予防に関する提言」を行ないました(アメリカでは1986年に、すでに子どもの受動喫煙の予防勧告
が出された)。日本でも子どもをタバコの害から守るための小児科医の役割について、小児科医は外来を禁煙にし、保護者に喫煙の有害性と危険性を教育し、タバコ自販機、広告、テレビでの喫煙場面の規制を提言しました。

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